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印象派を味わう―「カミーユ・ピサロと印象派」展 [講師出講]

先月のことになりますが、6/27(水)、シニアCITYカレッジにてピサロと印象派展にちなんだレクチャーをしました。

受講生の皆さんとは、5月に大阪市立美術館で「契丹展」という、かなりマニアックな展覧会を見ましたが、今回は万人向けというか、超ポピュラーな印象派です。が、その中でもカミーユ・ピサロという画家は、モネやルノワールに比べて馴染みが薄いかもしれません。実は全8回の印象派展に、唯一皆勤で出品した画家です。

印象派というのは、そもそもサロン(官展)と相性の悪かった(!?)若手画家たちが自主的に行ったグループ展に由来します。第1回は1874年に開催され、モネ、ルノワール、セザンヌなど30人の画家が出品しました。出品者は皆が皆バリバリの反逆児だったわけではなく、サロン寄りの画家も少なからずいたのですが、結果はご存知のとおり悪評紛々。「印象派」の語も、当時の批評家がモネの<印象―日の出>を揶揄したことからついたものです。

印象派の絵は、タッチや色が美しく、目に快く、理屈抜きで気持ちよく鑑賞することのできる絵が多いですね。世界中で愛される所以でしょう。しかし、今ではもっとも人気のあるこれらの絵が、発表当時、あれほど非難されたのは、どうしてなのでしょう[exclamation&question]これは、当時サロンで評価される絵がどういうものだったか、当時の人々にとって「よい絵」とはどんな絵だったのかを知らなければ、なかなか理解しにくいことです。逆にこれを知ることで、印象派の絵画が与えたインパクトを、より深く、いきいきと感じられるようになるでしょう。見る味わいも増すでしょう。

ピサロの絵画
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ということで、今回は、19世紀画壇の主流であったアカデミックな絵画との比較をポイントにお話しました。古典主義の美学を基礎とし、歴史や神話の主題を重厚なタッチで堂々とした大画面に描き出すアカデミック・アートは、軽やかで透明感あふれる風景画や風俗画の多い印象派の作品とは全く違います。一見すると、レオナルド・ダ・ヴィンチやラファエロの時代に逆戻りしたかのよう。そんな絵に慣れた人々の目には、細部が省略され、絵具を直接キャンバスに塗りつけたような印象派の絵は、ずいぶん異様なものと映ったことでしょう。この画家の一団はちょっとおかしいのではないか[exclamation&question]とさえ思ったとしても不思議ではありません。また、彼らが好んで描いたのは、歴史上の偉大なエピソードや神話ではなく、ごくありふれた田舎の風景やパリの街角、そして、そこに生きるの人々の日常。こうしたこともまた、理解されにくかった理由の一つでしょう。それらは決して、当時の人々が求める“偉大な芸術”ではなかったのです。

アカデミックな絵画―当時の人々にとってのザ・芸術
Bouguereau_The-Remorse-of-Orestes_1862.jpgcabanel_venus.jpg
左:ブーグロー「オレステースの悔悟」(1862) 右:カバネル「ヴィーナスの誕生」(1863)

一方、印象派の画家たちの芸術的特性や考え方も様々で、実はそれほど一貫した主義主張に根差す運動ではありませんでした。メンバーの異動や不和も多く、出品者や資金集めに苦労したことも多かったようです。その権威に陰りが見えてきたとはいえ、まだまだサロンの威力は健在。印象派の画家たちも、いずれはサロンで認められたいという思いを少なからず抱いていたのです。

そんな中で、カミーユ・ピサロは、展覧会のキャッチコピーにもあるように、まさに徹頭徹尾印象派だったといえるでしょう。モネやルノワールなど古参の画家たちが次第に(運動としての)印象派から離れていった後も、印象派としての矜持をもち続けました。晩年にはスーラやシニャックの新印象派に接近した一時期もあり、印象派の可能性を真摯に追求していたことがうかがわれます。しかし彼の絵には、むしろそうした熱い芸術的探求の軌跡を感じさせないような、穏やかで平和な世界が広がっています。さざ波のようなマチエールは、目の喜びここに極まれり、といった感じで、絵を「見る」喜びを存分に味わわせてくれます。

印象派の絵もアカデミックな絵もひととおり見た後は、ぜひ無条件に視覚の喜びに浸ってほしいと思いました。受講者の皆さんには楽しんでいただけたでしょうか。印象派は日本ともつながりの深い絵画。また機会があれば、日本の近代絵画と印象派についてもお話したいと思います。ありがとうございました。

[アート]「カミーユ・ピサロと印象派」展
兵庫県立美術館で8月19日まで開催中

小村みち
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