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磁器をめぐる熱い物語―マイセン300年 [講師出講]

6/13(水)、シニアCITYカレッジ(NPO法人シニア自然大学校主催)にて、「マイセン磁器の300年展」のレクチャーと見学を行いました。参加者はカレッジ受講生の皆さん約60名。

陶磁器は、美術工芸の中でも特に生活に根ざしたものづくりの領域ですし、ファンやコレクターも多く、絵画や彫刻に比べてより親近感の持てるテーマといえるでしょう。元気で知的好奇心旺盛な皆さんのこと、2時間のレクチャーにも積極的に参加いただき、午後の見学では豪華な陳列品の数々を前にさらに突っ込んだ質問が飛んでくる熱心さ。ミュージアムショップでは、売り物の高価なカップに見入って(魅入られて?)いた方も…[黒ハート]

「マイセン磁器の300年展」は、ヨーロッパ屈指の名窯マイセン開窯300年(2010年)にちなんで、西洋磁器の嚆矢であるマイセンの歴史を一望の下に展望する展覧会です。特に、マイセン創成期の磁器開発をめぐる男たちの刻苦奮闘の軌跡には、思わず引き込まれる面白さがあります。

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17世紀、東インド会社を通じて大量にもたらされた東洋磁器は、白く輝く滑らかな素地に美しく豪華な絵柄、そして薄く硬く丈夫で、実用面でもきわめて優れていることから、王侯貴族の間に熱狂的なブームを巻き起こしました。当時まだヨーロッパでは作るのことのできなかった磁器は、中国や日本からの輸入に頼るしかなく、それは東洋への憧れとあいまって、かの地での磁器熱をヒートアップさせます。金や香辛料とならぶ贅沢品として、「白い金」とまで呼ばれた磁器を、各国の王侯貴族たちはこぞって買い集めました。中でもザクセン選帝侯アウグスト強王は、自ら「磁器の病」と公言していたほどの磁器マニア。国家財政を破綻の危機に晒しながら、それでもやめられない、とまらない情熱でもって、集めに集めたのでした。

高価な磁器の収集は、当然、国家財政を圧迫します。ザクセンに限らず磁器収集が財政に深刻な影響を及ぼすことは珍しくありませんでした。それゆえ自国内での磁器製造は各国の念願でもあり、各地で焼成実験が繰り返されていたのです。そんなヨーロッパで、18世紀初頭、ついに硬質磁器の製法解明と焼成に成功したのがマイセン(現在のドイツ・ザクセン州)でした。件のアウグスト強王のもと、磁器製法の解明を命じられた錬金術師([exclamation])ベットガーが研究と実験を重ね、ついにカオリンを主成分とする素地の組成を解明、1300~1400℃という高温での焼成にも成功し、1710年、正式にマイセン窯が開かれたのです。その後も高温焼成に耐えうる絵付け用絵の具開発など様々な技術上の難関を突破し、ヨーロッパを代表する名窯として現在に至っています。

景徳鎮や伊万里などの東洋磁器を見よう見まねで模倣していた段階から、やがてヨーロッパ独自の様式が確立、さらに市民革命や産業革命による社会構造、生活様式の変化の波をかいくぐり、美術工芸として、産業として、300年を生き抜いてきたマイセン。美しい人形や食器セット、豪華な磁器彫刻の向こうに、近代ヨーロッパの激動が見えてきます。

お皿や茶碗やカップの素材として、今や誰でもごくあたりまえに使っている磁器。しかし、かつてはごく限られた人しか手にすることのできない究極の贅沢品でした。そして、その起原は東アジアにあり、中国や日本の磁器が西洋の貴人たちを熱狂させたのでした。

ひるがえって、ここ日本では、必ずしも西洋のように磁器ばかりがもてはやされたわけではありません。侘・寂(わび・さび)などの美意識をもち、独特の茶道文化を育んできた日本では、華やかな磁器とは違う、陶器の素朴で渋い味わいも大切にされ、洗練を重ねてきました。こうした東西陶磁器文化の違いも興味深いものです。

いずれにしても、人をこれほどまでに熱狂させる磁器の魅力とは何ぞや[exclamation&question]それは所有欲や権力欲と結びつき、富と権力の象徴として、政治や外交の演出道具として、あるいは高い教養の証しとして、時代の美意識と技術の粋を凝集した結晶でした。人があるものにとてつもない情熱を注ぐとき、その動機や意図がなんであれ、それが到達する高み・極みには限界などないのでは?―そんな感慨をもった展覧会でした。

[アート]国立マイセン磁器美術館所蔵 マイセン磁器の300年展
大阪市立東洋陶磁美術館で7月22日まで開催中

小村みち

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